吉野杉伐採見学遠征レポート

吉野の山まで伐採現場の見学に行ってきた際のレポート記事です。

(ちなみに超長い記事です。動画も13個ほど入っています。再生時は音が出ますのでご注意・・・)


(↑ブログにある動画をまとめたyoutube動画はこちらから)

さて、山に生えている杉の木を切ることを伐採(ばっさい)といいます。木はオールシーズン切れるわけではなく、というのも春や夏は木が水分をたくさん蓄えてるので乾燥が大変になるのと、虫なども付きやすい。そこで木の水分が最も少ない11月~1月くらいが伐採シーズンになります。

仕事柄高知や兵庫の伐採現場は見たことあるのですが、吉野の山にはまだ入ったことがなかった私。いつも使っている床材の材料がどこでどう育っているかが見たい。

で、せっかく見に行くならイベント的にちらっと見に行くのではなくて、山師さん(木の面倒みたり切る職人さん)の日常の仕事風景を見たい、と丸岡材木の岡本くんに無理を言いまして、何とか段取りしてもらった次第。

時期のタイムリミットが11月中と迫っており、スケジュールの合間を縫って無理やりの強行軍となったわけですが・・・

さて当日、朝7時半に丸岡材木さん集合ということで、私たちは5時に事務所集合で吉野へ出発。本当は授業があった女子大生山ちゃん、休んででも来たい、ということで参加。いい心がけです(笑)

ということで池ちゃん山ちゃんと三人で向かいます。

さすが早朝、道は空いててかなり早く行くことができました。しかし寒い・・・山は温度が違いますのでかなり厚着してきた3人・・・無事丸岡さんに到着後、吉野のイケメン、岡本くんと合流。岡本くんも山師さんの日常の仕事風景を見るのは初めてとのことでかなり楽しみにしてるようす。

で、岡本くんの四駈に乗り換え、早速山師さんとの待ち合わせ場所の川上村のダムに向かいます。

 

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ちなみになぜ乗り換えたかというと、今日の伐採現場、相当山道と林道(植林のための道)を走らないといけないらしい。おぉ、なんか冒険みたいでテンション上がります♪

丸岡さんの工場からどんどん東に向かいます。道は吉野川に沿って、ずっと上流に上っていく感じです。すぐに川上村に入ります。丸岡さんとこまではよく来てますが、そこから東に行ったのははじめて。

写真は吉野川の大滝ダム。ここが集合場所かと思いきや、次のダムだそうで、車で走ることさらに30分。もちろん信号が全くない道の30分ですので結構な距離です・・・

 

で、集合場所の大迫ダムに到着。山師の鍵(かぎ)さんと合流。『かなり遠いよ』という鍵さんの言葉に、いったいどこまで行くんだろうと不安がよぎる・・・

ダムを渡り吉野川の東岸へ。山師さんの軽トラックを追いかけながら山道を走っていきます。グネグネした道ですが舗装もされてるしまだまだ普通の道。ところが途中から舗装が途切れ始めます。おお、来たな林道・・・

 

 

林道を20分ほど走ったところで停車。山師さんの鍵さんから、ここがヘリコプターで丸太を搬出する際の集積所であると教えてもらいました。あれ、ここが伐採現場じゃないの?と心の中で四人とも思っていたはず・・・『まだまだ先だよ』という山師さんの言葉に不安がよぎる。

ちなみに山奥で切った丸太をヘリでここまで運び、ここで8トントラックに積み替えて運ぶそう。というか、ここまででも相当道が狭かったので、ここまで8トントラックが入れるということに驚く・・・

そして、ここからの道の荒れっぷりのすごいこと・・・車はずっと縦ゆれ状態・・・結構デカイ落石がごろごろ。山師さんが車を停めて石をどけつつ進む・・・まぁ、ちょっと広い登山道を車で走っちゃってる感じです・・・

そしてようやく伐採現場に到着。長い時間揺れすぎて感覚がおかしい・・・しかし本当に山深いところに来てしまった感じ。道際は雑木林になっていて見たところ杉は見当たらない。伐採現場はどこ???

『じゃあ行くよ!』と山師の鍵さんが歩くその先には・・・丸太でできた『はしご』・・・

その先はかなりの急斜面。
道は・・・見えない(笑)

とりあえず頑張ってついていくことに・・・

 

山師さんはどんどん先に行っちゃう。しかしこのはしご、めちゃ怖い。手を付かずには登れない。腰の引けている私・・・

しばらく登っただけですぐに息が切れる・・・急斜面だからってのもあるんですが、杉の葉っぱとか枯れ草が地面を覆っていて、とにかくすべりやすくて怖い。木につかまりながらようやく登れる感じでしょうか。

 

途中でぽつんと樹皮のはがれた杉が。『熊がやったんだなぁ』と山師さん。

・・・あは、やっぱ出るんですね・・・こわい・・・ある日森の中クマさんに出会わないことを祈りつつ先へ・・・

 

立ち止まってふと見上げてみる。そそり立った杉の木が並ぶ姿はなんか神々しい・・・すごく特別な場所に来てしまったような感覚に捉われます。なんか誘われているようでもあり、拒まれてるようでもあり・・・とにかく空気がひんやり透き通っていて気持ちいい。マイナスイオンいっぱいな感じ・・・

 

そんな山道をひいひい言いながら登ること数十分、『あの木切るよ』と山師さん。あぁ、ようやく着いた、助かった~山は寒いと思って厚着してたので早速上着脱いで涼みます・・・森の中はしーんとひっそり静まりかえっています。谷側から吹き上げてくる風が本当に気持ちいい・・・

鍵さんのほか3名の山師さんも合流。しばし一休み・・・

 

 

『どっから来たの?』『西宮からです』なんて会話しながら、『ようそんな運動靴で登ってきたなぁ』という山師さんの脚をみると、なるほど、足袋にスパイクがついてるようです。これは登りやすそう。欲しい。

正直、山の中がこんなに滑るとは思いもしなかった。この斜面では数メートル移動するのも結構大変。こういうことも実際来て見ないと分からないことだと実感。

 

 

しっかしこのあたりの杉は太いし背が高い。聞くと大体80年前後の木だそうだ。見上げると木のデカさに圧倒される・・・木に比べたら人間ってほんとに小さいな。

 

なんてやってる横で山師さんたちは黙々と作業開始。何しろ今日はいつもの作業を見学しにきてるだけなので、淡々と仕事は進んで行きます。切る木の中間くらいにロープを掛けて、別の木と結んで滑車を取り付け。これで木を倒す方向を決めるわけです。

 

 

全体像はこんな感じ。滑車はハンドルを引くことでテンションを掛けられるようになっているので引っ張れるわけです。

 

山師さんが色々説明してくれています。山男って怖いイメージがあったんですが皆さん気さくでいい方ばかり・・・

準備が整ったところでチェーンソーで伐採開始。まずは倒したい方向に受け口という三角の切り込みを入れます。

 

静かな山の中にチェーンソーの音が響き渡ります。みんな固唾を飲んで作業を見守ります。

 

そして・・・いよいよ伐採。受け口と反対側、谷側からチェーンソーを入れていきます。ある程度まで切ったところでくさびを打ち込んで、さらに切っていきます。

ミシミシ、という音がして少しずつ傾いていき、周りの杉にガサガサと葉っぱをこすりながらど~ん。

すごい迫力です・・・

 

 

伐採した杉の断面。等間隔で目の詰んだきれいな材。切りたての杉のにおいは製材されたものとまた違う、刺激的なにおい。

こうやって杉は切られて製材されて床材とか柱になっていく。命を頂いているんだなぁ・・・と改めて実感せずにはいられない・・・

 

伐採された杉はここでこのまま数ヶ月置いて乾燥させます。乾燥が進みやすいように部分的に鎌で皮を剥いています。

 

と切り口みて楽しんでる私たちを尻目にどんどん伐採は進んでいきます。別の木の伐採のようす。角度が違うので受け口とかの形状が分かりやすいですね。

 

伐採のようす。動画見て頂いたら分かりますが、急斜面で上を見上げてビデオ撮ってたらコケてしまいました・・・(笑)しかしコケつつも撮り続ける執念を感じてください・・・

 

またまた別の木の伐採。こちらはじわじわ木が倒れていくさまが分かります。途中ズーム­がおかしくなってます・・・

伐採時に違う木がテコになってぽーんと跳ね上がるのですごい迫力。

 

年輪を一本ずつ数えてみたら、76本。この日切った木全て数えましたが全て同じ本数だったので、同じときに植林されたものなんでしょうね。80年前といえば1930年ごろ。昭和五年なので戦前の植林です。第1回FIFAワールドカップが開催された年だそうです・・・

 

こちらは根元に少し腐れがあったので輪切りにしているところ。

 

この輪切り、もったいなかったので頂いて帰ることに・・・池ちゃんと比べて頂くとこの木の太さが分かるでしょうか。そしてかなり重たい。

できれば一日居たかったのですが、山師さんの仕事の邪魔をしてもいけません。ということで頃合をみて退散・・・といいながら1時間半も見てましたが・・・山師さんにお礼を告げ下山。次は手伝わせてもらおう。足袋も買おうと心に誓う私。

・・・そして滑る急斜面は登りより下りの方が怖い。3回もこけました。でも必死だったので恥ずかしくなんてありません・・・(笑)

杉さん、また会う日までさようなら・・・


より大きな地図で 101112吉野伐採見学遠征 を表示

この日の移動を地図で見てみるとこんな感じ・・・ただ林道入ってすぐ携帯が圏外になったのでGPSの確認もできず、伐採現場の場所はかなりいい加減です(笑)

ちなみに山師さんが『すぐそこが三重県だよ』と言ってましたが、確かにすぐ東が三重県の県境。すごいところまで行ったもんだ・・・

 

行きの林道は山師さんの車に付いていくのに必死で景色見てる暇なかったので、帰りはのんびり走りつつ景色を楽しみました。最初の動画で出てくるトンネルは北股トンネルという名前。奈良営林署と書いてありました。

 

 

山奥はほんとうに紅葉が綺麗でした。道沿いの川は吉野川の源流のひとつ。水がとんでもなく澄んでいて底が丸見え。まさに清流。

 

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足元に生えているのはスギゴケ。形が杉の葉に似ています。

途中には岩をくりぬいたこんなトンネルも。どうやって開けたんだろう?というか、80年前に植林した人たちはどうやってあそこまで行ったのか・・・当時からあるとすれば人力で掘ったのかも・・・

 

道のいたるところに湧き水や小さな滝がありました。山肌に降った雨がこうやって流れて小さな川になり、集まって大きな川になって海に流れていくという自然のサイクルを肌で感じる・・・

 

デジイチ持って滝を見た日には、やはりこういうの撮りたくなりますわな・・・シャッタースピード遅くして絞りまくっています。

 

滝の前のせせらぎで遊ぶ若者たち・・・このあと、山ちゃんは2回こけました(笑)

ちなみに滝の水を飲んでみましたら、めちゃおいしかったです。山の恵みです。

 

途中で道の向こうから視線を感じ・・・見てみると見たことない動物がこちらをみてる!結構距離があったので肉眼ではイノシシ?シカ?何だろう?と全く分からず・・・しかしじーっとこっちを見ています。

 

ひょ、ひょっとしてあれは、もののけ姫に出てきたシシ神さまではなかろうか、と一同盛り上がる・・・

騒ぐ私たちを尻目にシシ神はいづこかに去ってしまいました・・・

 

しかしシシ神さま、優しい目をしています・・・きっと、

『おまえら遠いとこよう来たなぁ、気つけて帰れよ・・・それともっと杉使ってくれやぁ・・・』

と言っていた・・・と思います(笑)

※ちなみに帰ってから調べたらシシ神ではなく、カモシカだったようです・・・それでも野生のカモシカに会えることってなかなかないよなぁ・・・

 

今回、山師さんが実際に働いている現場を見て、スケールの大きさ、山のデカさ、そして木のデカさ、とにかくそれに圧倒され、自分が想像しているより何倍も大変仕事なんだと衝撃をうけました。

 

木を使う仕事をしている私たち、材料って発注さえすれば届く、という感覚に陥りやすいと思うんです。

でも、実際に山に辿りつくだけでも大変、それに伐採作業には危険が常に付きまとう。倒した木を乾燥させてヘリで運び、トラックに積み替え、狭い道を通ってようやく山から出てくるわけです。

もちろん、80年前に苦労してその木を植えた人たちがいて、何十年も手入れをしている人がいたからこの木があるわけで、非常に長い年月とたくさんの人の苦労の上に成り立っている、という当たり前のことを改めて教えてもらいました。

そして、日本の林業が大変で、スギやヒノキが余っている現状。設計者の立場からすると、もちろん杉が好きで使ってるんですけど、山の為に木を使ってやっている、という驕りというか、そういうものがなかったか、といえば否定できないかもしれないなと。

きっと、木を使わせてもらっている、って感覚が欠如してたんだなぁ・・・

もっと感謝しながら大事に使おう。そう思いながら騒がしい西宮に帰ってきたのでした・・・