MK99200 | フォールディングチェア

デザイナー:モーエンス・コッホ(1960)
メーカー:カールハンセン&サン

吉村順三の著書「小さな森の家」のワンシーンをオマージュ。吉村氏が座っている椅子は、富士ファニチアの椅子で、構造やたたみ方はモーエンス・コッホのものに酷似している。1980 年代には販売中止になった幻の椅子

モーエンス・コッホのフォールディングチェアは折り畳める椅子のなかでは有名で、持ち運びしやすいからか建築の竣工写真によく登場する人気者。もともとはルド・ラスムッセンという老舗家具工房がつくっていましたが、現在はカールハンセン&サンが販売しています。

1932 年にデザインが発表されたが、斬新なデザインと折りたためる構造ゆえの強度確保などのため、1960 年の発表まで28 年もかかっている

私がこの椅子を手にしたのは数年前のこと。行きつけの北欧家具ショップタイムレスさんにたまたま実物が置いてあった、というのが出合いでした。

それまでこの椅子の存在は知っていたけれど、見た目にはそんなに引かれていなかったのですが、はじめて実物を間近で見て気づいたのは、細部まで非常によく考えてつくり込まれているということでした。


たとえばビーチ材の脚とひじ掛けの接合部。丸棒の脚にリングを通すための孔をあけるだけでなく、丸棒に沿わせて溝を彫ることで、孔の印象や他素材との取合いをやわらげながら、レザーベルトを受けるリングが回転しないように固定する役目も兼ねさせています。

脚の下部と横桟の取合いも素晴らしく、脚の先に真鍮のプレートを巻き、横桟は先端だけを丸断面にして溝を彫ることで、畳むときのスムーズな回転と、座ったときの強度を確保しています。

極めつけは、座面と脚をつなぐ真鍮リングとの美しい関係です。リングのなかに脚が通してあり、上下に動くだけで折り畳み機能をシンプルに完結させています。座面側の桟は少し丸みをもたせ、真鍮のパイプをかぶせることで木部と金属部の異素材を見事に調和させています。

シンプルな構造ながら、心憎いディテールのつくり込み。無垢のビーチ材やキャンバス、レザー、真鍮といった素材選び……実物を細部まで見て触れ、グッと心をつかまれちゃった私は、その日のうちにわが家に連れて帰ったのでした(笑)。

椅子は小さな建築である

名作椅子全般にいえることですが、プロポーションもさることながら、ディテールに見られる工夫にうなり、完成に至るまでの苦労に思いを馳せ、職人の技に感服する……というものが多いと感じます。

特にフォールディングチェアは折り畳むときの動きや安全性、強度まで検討する必要があり、計り知れない苦労を想像できます。

正しい折りたたみ方は、座面を上に折り返し、その中に背もたれを折り込むように入れると、キャンバス同士が擦れあって開きが止まり、安心して立てかけることができる

私も畳める家具のデザインを考える際、強度を高めるのに部材を太くすべきか、だが太くすればデザインが損なわれ、重量やコストも上がるし……と悩むことがあります。それを軽やかなディテールでさらっと解決してしまうデザインセンスはさすがだと思います。

これは住宅の設計にも言えることではないでしょうか。細部に凝れば凝るほど、コストも工期もかかってしまう。だから設計者は、美しく見せるだけでなく、機能や施工性、メンテナンス性まで担保できるディテールを追求しようとします。

ディテールにはそれだけで人を感動させる力があるのです。

最後に、タイムレスのオーナー市村さんがポツリと言った名言を1つ。

「椅子は小さな建築である」

すべてはこれに表れているような気がします。

小さな建築としての椅子、その細やかなディテールを愛でることも、名作椅子の1つの楽しみ方ではないでしょうか。

もともとこの椅子を製作していたルド・ラスムッセン(カールハンセン社が買収)の名前がタグに残っている