J39 | シェーカーチェア

デザイナー:ボーエ・モーエンセン(1947)
メーカー:フレデリシア

↑背もたれが描くアールが円錐のカーブを描いていたり、背もたれの貫を延長すると遥か後方で接するように傾斜が付いていたりと、緻密なデザインがなされている

Yチェアに並ぶダイニングチェアの名作、1947年にデザインされたボーエ・モーエンセンのJ39です。モーエンセンは1914年生まれ。36年にコペンハーゲンの美術工芸学校に入学、ここでハンス・ウェグナーと出会い、その後生涯に渡る友人となります。38年にはデンマーク王立芸術アカデミーへ進学、デンマークモダンデザインの父、コーア・クリントの門下生として学び、その後助手となります。

J39が生まれた背景には、FDBというデンマークの協同組合の存在があります。日本でいう生協みたいなもので生活日用品などを販売する組織ですが、このFDBの家具部門のデザイン責任者に指名されたのがまだ28歳のモーエンセンでした。

↑ペーパーコードはYチェアより0.5㎜太い、3.5㎜。0.5㎜の違いで印象はかなり変わる(発売時はシーグラスという海藻由来のコードだったそう)

モーエンセンはそこで、大量生産に向きながら、デンマークの人々が普通に、そして普遍に使える椅子を考えることになります。そして33歳のときにこのJ39をデザイン、座面にはYチェアより一回り太いペーパーコードが張られています。

現在はフレデリシアというメーカーで製造販売、日本では代理店経由で購入になりますが、ビーチ材ソープフィニッシュで9万くらい、Yチェアより仕様によっては少し高いくらいになってます。別名ピープルズチェア(人民の椅子)と呼ばれ庶民のためにデザインされた椅子ですが、デンマーク本国では庶民というよりは、もう少しアッパーの中高級層の方が好んで買ったんだそうです。

このJ39は外観は非常にシンプル。構造的な特徴もなく一見するとデザインを感じさせないというか、いかにも椅子、子供に椅子の絵を描かせたらこんな感じになりそうという佇まい。私が初めてJ39を見たときにも、正直にいうとシンプル過ぎてあまり惹かれなかったんですよね・・・

ただ、実際手に入れて日常的に使ってみると、非常に座りやすいんです。この座りやすい、は長時間だらしなくくつろげる、というよりは、食事の間ちゃんとした姿勢で腰かけられる心地よさ、と表現したほうがよいかもしれません。なのでこの椅子はどちらかというと姿勢の良い女性のほうが好みのような気がします。またひじ掛けがないことで、テーブルとの収まりがよく、No42やYチェアに比べテーブルを選ばないし、コンパクトな空間でもすっきり収納できる、というのも特徴です。

↑アメリカのシェーカー教徒の博物館においてあるシェーカーチェア。ラダー(はしご)バックチェアとも呼ばれ、椅子製作の実習でつくることも多いそう。英国のウィンザーチェアと並び代表的な椅子の1 つといえる

デザインルーツはアメリカで起こったキリスト教プロテスタントの一派、シェーカー教徒が使っていた椅子をリデザインしたもの。

シェーカー教徒は共同生活を行いながら、勤勉と質素を心がけ、建物や家具などもほとんど手づくりだったそうで、シェーカーチェアはそんなストイックな生活をそのまま形にしたような装飾のない簡素な椅子です。

直線的で少し武骨なJ 39と、中国明代の椅子から着想を得てSカーブの脚やY字の背もたれがオリエンタルで装飾的なYチェアとは、使われる素材が似ているにもかかわらず、西洋と東洋のルーツの対比が明確に感じられます。

この2つの名作椅子を親友どうしのモーエンセンとウェグナーがそれぞれデザインした、というのも面白いところです。

↑Yチェアと並べて。ひじ掛けがないのですっきり納まることと、余計な装飾がないので建築を邪魔しないことが最大の魅力

多くの建築家がこの椅子を採用する大きな理由は、佇まいがシンプルなので建築を邪魔せず、変に主張をしないからではないかと思っています。白い壁面や天井の存在感を重視するようなシンプルな設計をされる方に好まれる傾向があるように感じます。

空間構成や素材感で魅せる空間には、質の高い座り心地のよい椅子としてそこに佇んでくれる。静かだけど、確かな存在感こそが人気の秘密ではないでしょうか。