デザイナー:コーア・クリント(1950)
メーカー:カールハンセン&サン
↑右はアッシュ材にキャンバス地のタイプ。左もアッシュ材だが、アンモニアで化学反応を起こして変色させたスモークドアッシュにレザー張り
デニッシュモダンデザインの父ともいわれるコーア・クリントは1888年生まれ。建築家の父を持ち、早くから家具職人としての道を歩みはじめます。1924年にデンマーク王立芸術アカデミーの家具科がつくられる際に尽力し、後に教授となります。
彼がデンマーク家具にもたらした大きな功績の1つが「リ・デザイン」の思想。リ・デザインといえば、Yチェアのときにも触れたましたが、斬新なデザインを求めるのではなく、「過去の歴史や様式を見直し、現代に合わない部分を直す」という考え方です。
↑後ろ脚の上部に真鍮のボルトナットで回転できるように設けられた2 本の棒に、かぶせるように生地をかけ、ベルトで固定する。このボルトを軸に360 度回転する。桟の抜け防止として、座面前後と背もたれの3 箇所を革のベルトで締めて固定する
サファリチェアは英国軍の将校が戦場に持ち込んだ椅子をリ・デザインしたものといわれています。その大きな特徴は、ノックダウン式で組み立てや分解が可能であるという点です。こうした組み立て式の椅子は得てして座り心地はあまりよくないと思われがちです。しかし、座面の吊り構造、クッションのやわらかさに加え、360度回転する背もたれは、座る人のどんな姿勢にもフィットするため、非常に安楽性の高い椅子となっています。また固定しているフレームには適度な変形性と柔軟性があるため、床面に凹凸があっても安定感があります。
新型コロナウイルス感染症に伴う自粛は、家族が家で過ごす時間を増やすことになりました。冬は家に閉じこもる北欧の暮らしが今の日本に教えてくれることは多く、特に外部空間の使い方については学べることがたくさんあります。北欧の暮らしのなかには、オープンテラスやバルコニーなど、さまざまな外部空間があります。都市部の集合住宅ではバルコニーを開閉できるガラスで囲い、少しでも快適に過ごせる工夫が施されています。
↑それぞれのパーツを穴に差し込んでいくと、棒の間に渡された生地が座面や背もたれになり、ベルトを締めることでしっかり固定できる
一方、日本は台風が多く、夏の日射遮蔽がされていない外部空間は過ごせないくらいの暑さになります。また、日本のマンションのバルコニーは風が異常に強い。これはわが家のルーフバルコニーで身をもって体感していて、人工芝が飛ばされたり、風で椅子が倒れたり……。さらに、台風のたびに家具や植物を避難させないといけなくて、これが結構な重労働なんです。ですから台風時に移動しにくい固定家具ではなく、サファリチェアやフォールディングチェアのように、小さくたたんで持ち運べる家具は実は日本の家にこそ合っているのではないでしょうか。