UR都市機構さんが試験的に行っている、公団型団地の改修プロジェクト『ルネッサンス計画』の現地見学に行ってきました。第1弾は東京のひばりが丘団地、第2弾が今回見に行った大阪堺の向ヶ丘第一団地での実証実験です。
昭和30年代以降、当時の住宅不足を補うために全国各地に建てられた公団団地。当時は都市型生活の最先端で羨望の的。が、現在は老朽化によって各地で建て替えが進んでいます。ただ家余りの現状、環境問題を鑑みても建て替えが最善の選択か、という議論は絶えません。
そこで豊富な団地ストックを大規模に改修し、現在の社会情勢やライフスタイルに適した住宅にできないか、というのがこの再生実証試験。
小さいころから団地で育ち、今も団地に暮らす団地っ子代表の私としては、これは行かないわけには行きません。導かれるままに行ってきました・・・
こういう仕事をしてますと、団地再生に関しては、新聞記者さんとかからよく聞かれます。団地はやらないんですか?とか。
正直、このセリフは団地を知らないヒトじゃないと言えないな、と思ってしまう。団地再生に立ちはだかる問題はかなり多いから。特に専有部分だけを触る改修ではできることが知れてるんですよね。
まず面積、50平米以下がほとんどで30平米台というのもある。一住戸だけの改修では、ファミリー世帯はどうしようもない。次に設備や構造。電気容量は10A以下なんてのも多いし、配管は下階貫通が基本なので触りようがない。また壁式構造が多いので間取り変更もままならないし、階高も低いので天井も低い。
階段室型が基本なのでバリアフリーの問題もある。もちろん、耐震の問題も抱えている。
この現状を踏まえていくと、一住戸の専有部分改修では解決できない問題がほとんど。つまり箱から変えないとこの豊富なストックは活かす事ができないんだよね・・・
ただ、ね、団地には今のマンションが失ってしまっているメリットがあるのも事実なんです。
階段室型である団地は片廊下型のマンションにはない南北採光と通風があるし、低層な上に豊富な隣棟間隔もある。冬至の一階でもしっかり日が入るほどの。結構駅に近いところに立地してい るものも多いし、築50年を越えるような団地には大きな樹木などの緑がしっかり根付き、森を形成していたり、というのも大きな要素。
今のマンションで緑が豊かだなぁ、なんて感じることはないよね。土地が高いから、敷地をどれだけ有効に使うか、が最優先課題だから仕方ないですがね・・・
なので、今回のURさんの取り組みには個人的にすごく可能性を感じています。私たちのような零細事務所ではできない箱の改修は持ち主であるURさんにしかできないからね。
改修された部屋をみる前にビフォーの状態の団地を見せてもらいました。畳は撤去されて地板が見えています。『松板 上小節 厚四分 巾六寸五 九枚入 六尺六寸』時代を感じる印字。松の板 厚み12ミリ 巾195ミリ 長さ2000ミリということになります。たぶん。
ここは木製サッシもそのままになっている本当に初期の公団の姿を残しています。実家がまさにこの状態だったので個人的に懐かしい。ちなみにかなり昔、実家の木製サッシにドリルで穴を開けたことがあるんですが、ヒノキの香りがぷ~んとしました・・・普通はやってはいけません(笑)
ということでまず一軒目。ここは上下階を繋いでメゾネットとして、さらに屋根を作り変えて勾配天井にした事例。床暖房まで入ってとっても気持ちいい。リビングの壁一面が全て本棚になっていて階段で下階につながります。やはりメゾネットは面白い。テンション上がります。
この物件はさらに共用廊下に面したワークスペースまで確保してあるSOHOプランになっています。この廊下はもちろん、もともと住戸だった部分。窓の部分を開口として使い、うまく外部空間としてあります。この奥がエレベーターに繋がることでバリアフリーが達成されています。
途中でもう一軒ビフォー住戸を見学。ここは一階住戸です。床下が覗ける穴が開いています。覗いてみるとまさに木造住宅の床下そのもので、木の束で大きな土台を支えています。換気口もあって夏は涼しかったでしょうけど、冬はとんでもなく寒かったはず・・・
今回、この豊富な床下空間を最大限部屋に取り込むという提案が多くありました。
次の物件は同じく最上階で屋根を作り変えることでロフトを設けた事例。壁には珪藻土、床はヒノキ無垢材(ウレタン塗装でテッカテカだったのが残念)、ロフト部にはスギの付け梁や格子を設けてあって、自然素材を使い木造の家のテイストを出しています。これも面白い。
開口部の断熱性向上とのことで太鼓張り(表裏2枚和紙を張る)にした障子を設けてありました。
綺麗だし、断熱性能もそれなりにはあると思いますが、マンションで一番の問題になる結露対策には残念ながらならない・・・紙は水ガンガン通しますし、建具は隙間だらけだし。
それとここまで複雑だと張替えが容易にはできないぞと。子供が小さいうちは難しいかもなぁ。でも綺麗だなぁ・・・
この物件は住戸の一部を解体してテラスにしてあります。これはいい!ここに住みたい、と思ってしまった。こういう物件がどんどん出てきたら私たちの仕事ももっと楽しくなるなと。
テラスから隣りの棟をみたところ。にょきっとそびえ立っているのがエレベーター棟。階段室型を活かしつつEV付けてバリアフリー化するには色々課題も多い。このあたりがネックになってくるんだな、と実感。
途中の一室は公団団地のポストや照明器具、障子などを活かして何かできないか、という取り組みの展示がされてました。まぁ、これは遊びみたいなもんですね・・・
ちなみにこの団地で使われていた無垢の床材の実物が展示されてました。サネ部分には築50年のホコリが付いたままのカットサンプル。樹種はたぶんカバかなと思います。
昔は全部無垢が当たり前だったんですよね。私たちがやってることはマンションを昔の姿に戻そうとしているだけなのかもしれないなと思ったりします。
お次は一階住戸にウッドデッキや家庭菜園を設けたプラン。防犯上の問題はさておき、こういうのもいいよねぇ。サッシは全開口できる折れ戸になっています。
今回の見学でたくさん見かけたのがこちら。収納ベッドです。果たしてこれは便利なのかどうか、少し微妙なのですが、子供部屋などで使えるアイデアかもしれません。みなみちゃんが片手で操作できるくらいなので動きもなかなかスムーズです。寝心地は試せませんでしたが・・・
次は一階部分を大きく増築して、カフェ的な使い方もできる住戸という提案。団地の一角にカフェとかあったら確かに面白いですよね。集合住宅のコミュニティ欠如が叫ばれて久しいですが、今回特にコミュニティを意識した提案が多かったのは興味深いです。
この住戸はフロアレベルを3段階に設定、増築部分を一番低く、LDKは既存より40センチ近く下げて、その他の部屋は既存レベルとしたスキップ構造。床下空間を活用することで天井高さはグッと上がってくるわけです。豊富な床下空間を有効活用しています。段差があるだけで家に奥行きが出るから不思議。
そしてその最上階はメゾネット住戸。エレベーターと階段を別に設けることで不要になった階段室を、住戸内の階段として使ってしまうという発想。家の中にメーターボックスの扉がそのまま残っているのが面白い。全面をガラス張りにしてみたりというダイナミックな構成になってます。
こちらもリビングは屋根を新たに設けて勾配天井に。100平米近くあって、テラスにも繋がっています。テラス右奥に見えるのがエレベーターです。案内のお姉さん曰く、この部屋が一番人気があるそうです。
テラスの向かいはルームシェアなどを見据えたミングル住宅。女性の2~3人暮らしを想定しているようです。開放的なリビングにキッチン、こういうところで暮らせたらいいなぁ、とみなみちゃんも申しておりました・・・
次は縁側のようなテラスに繋がる2戸。一つは高齢者の一人暮らしに対応したワンルーム。もう一つは若い男性の一人暗しを想定した一戸。この二つがウッドデッキでゆるく繋がることで、世代間のコミュニティを図ろうということでしょう。高齢者の所在不明問題が話題になりましたしね。いい考えかもしれません。若い人は嫌がるでしょうが・・・
はい、かなり長くなりましたが最後の物件です。一階を増築しつつ、各所に小さなデッキを設けて外との繋がりを生かした住戸。私個人的にはここが一番よかったなぁ。
洗面からデッキに繋がります。浴室にも大きな窓があって、そこから外が見える、という構成。一階なので外の視線は相当気になるところですが、外と中の繋がりが面白い家。
というわけでひと通りの見学をさせて頂きました。かなり興味深い内容でした。
さて、今回の実証試験、見学は2月までとのことで、このあとこの物件どうなるの?が気になるところですが、なんと全て解体、更地に戻して土地ごと売却してしまうそう。もったいない気がしますが、多額の負債を抱えるURさんにとっては仕方ないか・・・
今後、団地の改修に関しては民間事業者への売却などを見据えているとのことでした。おそらく大手ディベロッパーさんの手に委ねられていくというケースが多くなるかと思います。どんな形にしろ、団地ストックが適正に活かされていくのであればそれに越したことはないと思います。安易な建て替えという選択は私も反対です。
ただ、最近首都圏で盛んな社宅の一棟まるごとリノベーションのような、ただ内部を新築にするだけという改修には賛成しかねます。
もちろんビジネスモデルとして成り立たないといけないという前提はありますが、ただ新築マンションのように新建材で中を綺麗にするだけでは、団地再生住宅は持続しないと思うんです。
ボロボロになっているとはいえ、50年間住宅として団地が存在できた理由の一つは、内部にしっかりしたものを使っていたこともあるはずで・・・
最近私たちでも新築やリノベーション後物件の依頼が多い現状がそれを示しているのではと。
それと、築50年を越えた団地が持っているもの、付加価値というか、そういうものを活かすのは何か、特に大規模改修時にしか触れない躯体や基本計画を考える際にはここが重要になってくるんではと思います。そういう意味では今回のURさんの改修試験はライフスタイルという部分まで踏み込んでいる点は評価できると思います。
できれば躯体だけしっかり直してもらって、スケルトン売りとかスケルトン貸しみたいなのがでてきたらいいんだけどな・・・と思いつつ、現地を後にしました。今回の見学会、まだ見られていない方はぜひご覧頂ければと思います。