The Egg | エッグチェア

デザイナー:アルネ・ヤコブセン(1958)
メーカー:フリッツハンセン

デンマークのクヴァドラ社のタンバリン(ミナペルホネン)張りのエッグチェア。オットマン付き。

今回はコーナー2回目の登場、巨匠アルネ・ヤコブセンが1958年にデザイン、彼のアイコン的な一脚でもあるエッグチェアをご紹介します。フリッツハンセン社が製造販売、その名の通り卵をイメージさせる球体を座るところだけ削り取ったような形状と浮遊感のある一本足、非常にインパクトのあるシルエットが有名な一脚です。ファブリック張りのほか、レザー張りもあります。

ホテリアアルトの304号室には赤いエッグチェア。Rの天井空間と窓の雪景色にすっと馴染む。

ヤコブセンは建築家としてSASホテル(コペンハーゲン)の設計をするにあたり、ロビーに置く椅子の一つとしてエッグチェアをデザインしました。ほかに名作と言われる椅子や照明もこのホテルのためにデザインしたものが多く、彼にとっては建築家としても家具デザイナーとしてもマイルストーンとなる仕事であったと思います。

2018年にストックホルムの空港にて。さりげなく4脚置いてある贅沢スペース。

当時最新鋭の技術だった発泡ウレタン成型で自由な三次元曲面を実現したエッグチェアですが、ヤコブセンは石膏とワイヤーを使って試作を繰り返してこの形状にたどり着いたそうです。座ってみると、左右に張り出したヘッドレストに守られた感じの独特の安心感があります。またリクライニングもするので見た目以上に座り心地もいいのです。

リパブリックオブフリッツハンセン大阪店にあるアザラシ皮のエッグチェア。後ろ姿はもはや生き物。

ちなみにこの有機的な丸み、やはり生き物を思わせる感じがあって、撮影のために裏返してみたら何か少し恥ずかしい気持ちになりました(笑)大阪のショップでアザラシの毛皮を張った特注品を見たとき、あ、これはもう生き物だなと実感。後ろから思わず抱きしめたくなる不思議な魅力があります。

置かれる空間が試される巨匠の名作

大津の商店街ホテル講の客室に置かれたレザー張り仕様。

さてそんなエッグチェア、とにかく高価なのでなかなか購入は難しい椅子のひとつ。今までご紹介してきた椅子の中でもトップクラス。ファブリック仕様で定価100万円ほど、レザーになるととんでもない金額。コンディションはしっかり確認する必要がありますが、ヴィンテージを探すのも手です。

座面のクッションは取り外せるようになっている
脚はアルミニウム鋳物製。下部のハンドルはリクライニングの硬さ調整用。

ウレタンでできているため大きさの割に重くはないのですが、置ける場所や搬入経路が限られるうえ、丸いため持つのが難しく移動は大変。またインパクトのある形状は空間に大きく影響を及ぼす、つまり設計側としては色々持っていかれてしまうクセのある一脚です。

ただ、エッグチェアほどの存在感と説得力を持った椅子は他に類を見ないとも言えます。古民家の障子の縁側でも、ホテルライクなインテリアでも問題なくその空間の質を高めてくれます。そして置かれる空間の質が試される、設計者にとっては非常に難易度の高い一脚。いつか手に入れたいなと妄想中です・・・