KK87830 | プロペラスツール

デザイナー:コーア・クリント(1950)
メーカー:カールハンセン&サン

今回はコーア・クリントがデザインしたプロペラスツールをご紹介します。形状はX字に開いて使うオーソドックスな折りたたみ構造で、現在もカールハンセン&サン社で製造販売されています。

コーア・クリントは当コーナーで以前紹介したサファリチェアのデザインでも有名。デンマーク王立芸術アカデミーに家具科を設立、初代教授として多くの教え子を輩出した、デンマークデザインの父と呼ばれる重鎮です。

斜めから見ると捻じるように加工された脚の形状がよく分かる。これがプロペラと呼ばれる所以。

このプロペラスツール、そもそものデザインは1930年に発表されたものの、製作が困難として1962年の販売まで30年以上掛かっています。以前紹介したモーエンス・コッホのフォールディングチェアもデザインから発売まで30年前後掛かっていて、たためる構造を商品化することの難しさを物語っています。

素材はオークが使われており、座面はキャンバスとレザーから選べます。回転軸には真鍮の金物が使われていて、素材のセレクトはまさにデンマーク家具王道の組み合わせ。特筆すべきはたたんだ際の脚が一本の丸棒のようになる点。一本の棒を三次元的にねじるようにカットした形状となっていて、この形がプロペラに似ていることからこの名になっています。

たたむと脚や横桟が一本の丸棒のように納まる。回転軸は真鍮のボルトで接合されている。

このX字と布や革の座面での椅子構造ですが、神社などで使われる床几(しょうぎ)にも見られるデザインで、日本には中国から渡ってきたもの。さらに古い例では青銅器時代のエジプトの遺跡でも出土していて、世界最古のたためる椅子形状の一つでもあります。

数千年の歴史を超えたリ・デザイン

現在はオーク材しかないが、元々はサファリチェアと同じアッシュ材が使われていた。

クリントはリ・デザインという、古くからのデザインを再解釈する概念を推し進めた人ですが、プロペラスツールはデンマークの青銅器時代の遺跡から発掘されたスツールをリ・デザインしたもので、数千年の時を超えてしまうデザインの力ってすごいですよね・・・

このデンマークで発掘された椅子が、エジプトで発掘された椅子のコピーなのか、それとも北欧のオリジナルなのかは議論が分かれているようですが、まぁ、オリジナルであってほしい、というのがデンマーク人の本音でしょう・・・笑

ポール・ケアホルムのプロペラスツール。フリッツハンセン社にて販売中。
ヨルゲン・ガメルゴーのプロペラスツール。2022年にフレデリシア社より復刻。

なおクリントのプロペラスツールは、彼の教え子たちによってさらにリ・デザインされていることでも有名で、ポール・ケアホルムはステンレスの板をねじった形状のスツールを、さらにヨルゲン・ガメルゴーは細いステンレス棒を組み合わせたスツールをデザインしており、デンマークの3大プロペラスツールと呼ばれています。

リストペクトを持って先人のデザインに自分のアレンジを加えながら手を入れていく、熟成された歴史の深みこそデンマーク家具の大きな魅力。ただの猿真似ではなく敬意を持って向き合い、自分のものとしていく過程というのは、日本の温故知新や守破離の考えにとても似ていて、日本人が北欧の文化や歴史に共感してしまうポイントの一つではないでしょうか。

別売りのトレイを載せるとサイドテーブルにも。

数千年を超えてみたり、数十年で手を加えられたりと面白エピソードが多いプロペラスツール、一脚持っているだけでお客さんに蘊蓄をかなり語れます。ちなみに3大スツールをコレクションに加える私の夢はまだ叶っていません・・・