STOOL60 | スツール60

デザイナー:アルヴァ・アアルト(1933)
メーカー:アルテック

↑わが家のスツール60。左)オーソドックスなバーチ 中)水がこぼれても安心なブラックリノリウム 右)座り心地がよいファブリッククッション(ヨハンナ・グリクセン)

名作中の名作、スツール60。デザインはフィンランドの大建築家、アルヴァ・アアルトです。1933年に初めて発表され、すでに90年近く経っている世界一有名な三本脚スツールです。

2018年にフィンランドに行ったんですが、かの国の人にとってアアルトはただの建築家ではなくて、お札になっちゃうくらいの国民的英雄。そんな英雄アアルトがデザインしたスツール60はきっとどの家庭でも一脚あるといって過言じゃないはずですが、ヘルシンキのアルテック本店で高齢のご婦人がスツール60を熱心に選んでいる光景をみて、本当に国民に愛されてる椅子なんだなぁと痛感しました。

こないだとあるオンラインセミナーでも話したんですが、急峻な山と厚い土壌のある日本に比べ、平たく硬い岩盤の上に浅い土壌のフィンランドでは細い木材しか育ちません。また当時は経済的にも豊かではなく物資も乏しい時代だったので、小さな断面の木材や合板を使ってどう家具を作るのか、という問題がありました。

↑フィンランド・ユヴァスキュラの「Alvar Aalto Museum」にあったLレッグを曲げるための装置

↑フィンランド・ヘルシンキの「Studio Aalto」にあったLレッグの製作工程サンプル。5枚のスリットに接着材を付けた薄板を入れて90 度に曲げる

このスツール60の曲木の脚部分、Lレッグと呼ばれる成型技術はそういったことを背景に生み出されたものになります。木材を90度に曲げるにあたり、五本の溝と五枚の薄板を組み合わせることできれいなシルエットと強度を両立させるという仕組みが用いられています。素材に使われているのはフィンランドを代表する材であるバーチ、つまり樺が使われています。なんか北の寒いところには白樺が生えているイメージ、ありますよね。

私がはじめてスツール60を購入した際、こんなシンプルな形状の割に結構値段するなぁ・・・というのが正直な感想でした。そうなんです、見た目に反して高いんですこの子。

そしてこのスツール60ですが、様々なバージョンや色のものが存在します。一番オーソドックスなのは天板も脚と同じバーチの突板でできているもので、私が最初に購入したものです。その他リノリウムを貼ってあるもの、ラッカー塗装をしてあるもの、天板にクッションが入っているものetc。色やファブリックも合わせるととんでもない種類のバリエーションがあり、理論上、何脚でも重ねてスタッキングすることができるのも特徴。

また椅子としてだけでなく、ソファに座る際のサイドテーブルとしても使いやすいんですよね。これはもう一つ要るなぁ、とサイドテーブル用にリノリウム貼りのものを追加購入。そのうち着替えの際に使う座りごこちいいのが欲しいなぁとクッション座面のやつを購入・・・と結局3脚・・・つまり、一脚買うと必ず次にもう一脚欲しくなる、人間の煩悩をくすぐる危険な椅子です(笑)

正直、形はシンプルでどこにでもありそうなスツール、そして座り心地がよいわけでもないけれど、単純であるがゆえに使い方の多様性を生みだす器の広さを持っている。スツール60の外箱に書かれている『ONE CHAIR IS ENOUGH(ひとつの椅子で充分)』という言葉が表すように、まさに普遍的なデザインを持つスツールと言えると思います。