毎年寒くなると多くなるのが『結露とカビ』の相談。この冬も増えてるんですが、最近多いのが『築年数10~15年程度のマンションの結露とカビ』のご相談・・・
新しいのになぜ、と思いますが、共通するのが『1階角部屋』という点です。中にはクローゼットの中身に全てカビが生えたり、壁紙を何回替えても止まらない、といったことでかなりお悩みの方も多いようです。
今回は一階角住戸のカビと結露について、原因や対策など色々考えてみます。
冬の1階住戸
住戸位置による温熱環境の違い、例えば角部屋なのか、最上階なのか、1階なのか、もしくはその複合なのか、による熱損失の違いは、こちらのページでも説明させて頂いてますので詳細は省きます→『マンション住戸位置による温熱環境の違い』
結論としては、周りを囲まれている中住戸と、角部屋1階などの住戸では3倍以上の熱損失の違いがある(窓が多ければそれ以上)という話なんですが、これはあくまで断熱性能から計算した熱損失係数のみの比較であって、季節ごとの違いは考慮してません。
例えば、最上階住戸と1階住戸では、外気に面する面積は同等のため、数字だけで見ると同じになりますが、夏と冬では状況が変わります。
夏は、最上階は屋上面が日射にさらされ蓄熱するためかなり暑い。逆に1階はその影響を受けず、床が地温によって冷やされるので涼しい。
冬はこの逆で、日射を受けやすい最上階は比較的暖かいけど、地面に熱を奪われ続ける1階はひたすら冷え込む・・・
↑北ではなく南側でも出隅はカビが生えることがある・・・
で、角部屋はさらに影響が大きくなります。外気に面する面が多いのはもちろん、角が多いことで熱損失が大きくなるからです。
特に外に向けて出っ張っている出隅(でずみ)は、外部の表面積が大きいので熱を奪われます。特に北西や北東の角に関しては、日が当たりにくいため常に冷え続けますので、ここに面した室内の壁はカビや結露がよく起きる場所です。
また角部屋には冬に風がよく当たる住戸も多く、強い風によって表面がさらに冷やされるケースも多いようです。
換気やライフスタイルの問題
結露は断熱不足とともに、室内の水蒸気量にも大きく影響されます。要は、室内の水分が多ければ、壁の温度がそこまで冷えてなくても結露を起こすわけです。
例えば浴槽のお湯を張りっぱなしにしたり、大きな水槽を置いたりすると室内の水蒸気量は増えて結露しやすくなります。ほかにはガスファンヒーターや石油ストーブなどの暖房機は、燃焼時に水蒸気が発生するため結露を促進します。
こういった毎日の生活での水蒸気量が多いことに加え、1階角部屋という条件が重なり、北側の部屋がカビや結露で使用不能、という状態で悩まれている方は結構おられるようです。
ちなみに2003年以降に建築されたマンションでは、シックハウス法に基づき『24時間換気』が必ず設置されています。2時間で室内全体の空気を1回交換してしまうだけの能力を持たせることが義務付けられているため、換気によって室内の水蒸気が減り、結露しにくいという現状があります。
断熱も換気もばっちり、なのに・・・
↑ご相談を受けた神戸市の外断熱マンション。室内はクロス貼り替えるたびカビが・・・換気もバッチリ、床下に漏水もないのになぜ?
以前、外断熱マンションの1階角住戸に住まれている方から、結露とカビがひどいというご相談があり、調査をさせて頂いたことがあります。仕様をお聞きすると、鉄筋コンクリート造としては理想的な外断熱工法で、第一種の24時間換気もついており、窓は樹脂サッシの遮熱ペアガラス、という物々しい仕様。しかし、室内は常に湿気ており、北側の部屋の壁はカビだらけ、クローゼットの中のものに全てカビが生える、という状況。
断熱性能がある、換気もされている、ファンヒーターとかも使ってない。にも関わらず、室内の湿度が高い。となると、疑われるのは漏水です。室内の配管のどこかで水漏れが起き、床下がプールになっていたり、という最悪の自体を想定して床下もチェック・・・しかし、どこにも水はなく、結構乾いている・・・
なぜだろう???この水蒸気は一体どこから来てるんや???と途方に暮れました・・・
↑室内床より地面が1mも高いうえ、建物の角が土に直接面していた。
で、冷静にみてみると、このマンションは高低差のある敷地に建っていて、この角部屋の部分はまわりの地面が高く、室内の床より1mくらい上が地盤面、家全体をバルコニーが取り巻いている形状なんですが、一番カビがひどい北西の角の壁を外からみると・・・ここだけ外壁が地面と接してる。ひょっとしてこの土から出た水分がコンクリートに染み込み、少しずつ室内に出てきているんじゃないか、と・・・
しばらくのち、管理組合さんがその部分の土を掘り返したら・・・結露とカビは止まったそうで、逆に乾燥気味になって困る、ということでした(汗)
こういった例は非常に特殊ですが、1階住戸は地面に近いというのはどこも同じ、高層階よりもどうしても湿度は高めになります。特に植栽とかが近くにあると余計に高くなる・・・また、斜面地に建っているマンションでは一部地下のようになっているケースや、地下駐車場などと面しているために冷え込む、という場合もあって、問題を余計に複雑にしています。
一階角部屋でのカビと結露対策リフォーム
と、ここまで1階角部屋でのカビと結露の原因をいろいろ見てきましたが、ここからは具体的な対策をご紹介していきます。
1)断熱性をあげる(壁と床、窓)
築10~15年程度のマンションでは、大抵の場合、外壁に断熱材(硬質発泡ウレタン)を吹き付けて断熱しています。通常階ではこれでも足りているものでも、1階角部屋では足りていないという場合が多いようです。なので、根本の解決を考えるならば、やはり壁の高断熱化は避けて通れません。室内側からある程度の厚みを持たせた断熱材を付加することで冷え込みを防止します。
また、土間に関しても断熱材を敷設したいところです。これは物件の状況により施工方法が変わりますが、なるべく厚めの断熱材を入れておきたいところ。こうすることで冷え込みを防ぎ、壁や床の表面温度が下がらないようにします。
なお、窓については内窓をペアガラス以上の仕様で設置します。できれば断熱ブラインドも付けるとさらに効果は高いです。
2)換気
2003年以前の物件では、例えば浴室換気扇やキッチン換気扇を24時間換気の機能がついたものに取り替える、といった対策が効果的です。ただし、外に空気を捨てるばかりでは入ってこないので、給気をすることを忘れてはいけません。給気口がある場合は開ける、ない場合はエアコンダクト用のスリーブなどを給気ができるように細工することで対策ができます。
排気ばかり増やすと室内が減圧されて、玄関ドアが開けにくい、耳鳴りがする、ということが起きる場合がありますので注意してください。
3)ライフスタイル
ガスファンヒーターや灯油ストーブなどの水蒸気を発生する暖房器具はなるべく使わないようにします。ただどうしても使いたい、という場合は結露の具合をみつつ、エアコンや床暖房などと併用し、換気をしっかり行うことが重要です。加湿器も同様です。
その他、お風呂に入ったあとや、浴槽に湯が残っているときは扉をしっかり閉め、換気扇を回す、といったことで結露をかなり軽減させることができます。
ちなみに、室内の水蒸気量を減らさず壁や窓の断熱性を上げると、そこで結露が止まった分、ほかの冷えた部分で結露する、ということが起きることがあります。多いのは玄関ドアが結露するようになるケースですが、ここは断熱性を上げるのが難しいため、やはり水蒸気量を減らす工夫をして頂く必要があります。
4)その他
壁の結露やカビなどの対策として、エコカラットを貼ったりするケースが見られますが、これだけではまず効果はありません。調湿性はわずかで限定的なものなので、上記の対策をした上での最後のおまけ程度に考えてください。
これは珪藻土にも言えることですが、調湿効果のみに過度な期待をしすぎるのは賢くありません。しっかりと性能を上げた空間の中でこそ、調湿素材の効果が活きる、と考えて下さい。
なお、表面の仕上げ材に強アルカリ性の素材、しっくいや石灰が入った珪藻土を使うとある程度カビの発生を抑止できます。しかし、断熱性を上げないで塗っただけでは結露が起きる状態に変わりはないため、強アルカリの塗り壁材でもカビが生えることがあります。
まとめ 『ひどいものは早めの対策 軽度なら水蒸気とうまく付き合うこと』
さて、ここまで一階角住戸のカビや結露対策をみてきました。根本的に解決したい、と考えるならもちろん、全面的に改修することを私たちはお勧めします。それが一番矛盾がないからですが、もちろんコストはかなり掛かります・・・
ですが、ひどすぎるカビは特にアレルギーをお持ちの方の場合は大問題に繋がる可能性がありますので、早めの処置をお勧めします。
そこまで困っていない方は、まずは手軽にできる対策から色々試してみることをお勧めします。暖房機の選定などライフスタイルや生活習慣に関してはコストをあまり掛けずに変えられるものがたくさんあります。また窓を開ける回数を増やすだけでも結露の低減効果は高くなります。冬場は空気が汚れやすいので、日中の暖かい時間に数分でも風を通す習慣をつくるのも効果的です。
最後に、結露は全て悪いものではない、と私は思っています。カビを呼んでしまうほどの壁の結露は問題ですが、少し曇る程度の窓の結露は拭かなくてもそのうち乾きますし、乱暴ではありますが、窓が曇るのは冬ならではの光景。家族で鍋を囲みつつ、曇った窓を見て、あぁ結露してるなぁ、なんてのは悪くない冬の過ごし方だと私は思います。
自分のライフスタイルと水蒸気、結露の関係を感覚的に掴むことも重要。お風呂入ったあと、何分換気扇回せば乾燥する、とか、これくらい換気するとこの窓は結露しないんだな、といったことを色々実験してみてください。その際、それぞれの部屋に温湿度計を置いて数字と体感を合わせておくのも効果的です。
湿度が高いほうが暖かさを感じたり、風邪をひきにくいのも事実。自分たちで水蒸気をコントロールする、という感覚でうまく付き合ってみてください。