↑小倉の家。玄関に設けた木製の通風採光断熱引戸。
中古マンションの玄関ドアに必ずと言っていいほどついているアルミの折れ戸網戸。それを木製の引戸で作ることを色々とお勧めしてきて、実際にかなりの物件に採用させて頂いてきました。
ここではその玄関木製網戸をさらにもう一歩進めて、夏だけでなく冬の断熱にも使えるようにする方法についてご紹介してみたいと思います。
マンション玄関ドアの断熱性が低いという問題
↑ポートアイランドの家。玄関ドアにつながる空間をなるべく小さく区切ることで居室を冷やさないようにする。
マンションはそもそも風が通りやすい住まいです。なぜなら戸建てより高い位置にあることが多いですし、南北や東西に板状になった建物形状は気圧や温度の変化が大きくなりがちで、空気の流れが生まれやすいからです。
なので網戸を引戸で設けると暑い時期は非常に役立ってくれるわけですが、マンションの玄関ドアが抱える問題って、実は冬のほうが大きかったりします。それはずばり断熱性が低いこと。
最近の新築マンションでは玄関ドアにも断熱材が入ったものを使われるようになってきていますが、ある程度の年数より古い物件ではほぼ非断熱ドアです。
玄関ドアは居住者個人では触ることができない共用部分のため断熱改修することが非常に難しい部位で、玄関ドアを交換せずに断熱性を高める方法はないか色々考えてきましたが、玄関をなるべく小さな区画で区切るようにするといった間取りでの対策などしか対応方法がありませんでした。
自宅をリノベしてみて気づいたこと
↑自邸の玄関ドアに設けた網戸。夏は風も通るし何より明るい。ただホコリはすぐたまる。
2016年に私も中古マンションを買ってリノベーションをするにあたり、玄関ドアに木製網戸は絶対にやりたい項目でしたので迷わず設置しました。
5月に住み始めて最初の夏、網戸だけにしてみたらこれが本当に効果がすごくて、ビュンビュン風が抜けます(風が通り過ぎて逆に怖い時もあるし、ホコリのたまり方もすごいんですけどね・・・)
こりゃいいなぁと喜んでいたんですが、最初の夏が終わり秋が来て寒くなり、網戸では過ごせず玄関ドアを閉めることになってはじめて気づきました・・・玄関がすごい暗いことに・・・(笑)
それまで網戸だけでの生活が当たり前だったため、網戸越しの光で玄関が明るいのが当たり前と思っていたわけです。玄関ドア閉めてしまうと昼間でも真っ暗・・・
また、玄関ドアももちろん非断熱ですから、冬は玄関が非常に寒い・・・トイレを廊下に設置していたのでこちらも寒くて、これは住んでみてはじめて気づいたことでした。
玄関ドアに採光機能と断熱性能を持たせるには
↑木製網戸にツインカーボをはめ込んだ断熱引戸。効果はあるけれど準備が面倒・・・
さて、自宅での初めての冬を迎え、暗さと寒さという問題に直面した私が考えたのは、何とか網戸を冬にも使えるものにできないか、ということでした。
ポリカーボネートの中空ボードであるツインカーボという板をネットで発注し、網戸にはめてみることにしました。網戸の桟に無理やりはめ込むように両面から挟み込む感じです。
これが効果てきめん、びっくりするぐらい断熱性能が上がりました。冬も日中は玄関ドアを開けて引戸だけにすることで採光も確保できますし、夜は玄関ドアと合わせて閉めることで玄関の冷え込みもかなり抑えられるようになりました。断熱戸の効果を実感し、これは何とか設計に活かしていきたいと・・・
が、毎年冬が始まる前にポリカをはめて春になったら外す、というのが思ったより手間なんですよね・・・また冬でもちょっと空気の入れ替えをしたいときとか、夏の冷房時に断熱性を高める、という細かい融通が利かないのが非常にストレス・・・これはこのままではお客さんの家では使えないなぁ・・・というのが正直なところでした。
一枚の引戸に網戸と断熱採光戸の役割を持たせる
↑障子の中の障子を開けるとガラス。重要文化財の旧朝倉家住宅にて。
さて、自邸での実験を経て断熱戸の効果を実感、何とかうまく実用化できないかと考えていた矢先、ご相談頂いていたプランで玄関とリビングがどうしても直接繋がってしまう、という問題に直面。そのままでは玄関の冷え込みがリビングに影響する・・・
これをせっかくの機会と考えて、一枚で断熱も通風採光も取れる引戸を考えてみることに。ヒントにしたのは和風建築でよく使われる雪見障子です。障子の下半分が動いてガラス越しに足元の雪が見える、という先人の知恵です。
これってつまり、障子の中にまた引戸がある、建具in建具の工夫です。この日本古来の知恵を活かして、一枚の引戸の中にさらに引戸を設けて断熱戸と網戸の機能を持たせてはどうか、と考えたのが名付けて『通風採光断熱引戸』です。
通風採光断熱引戸 ver1.0(横引き)
こちらが通風採光断熱引戸、横引きのver1.0の開閉のようす。この事例ではキッチンの勝手口に設けています。断熱と採光が取れる建具としてポリカーボネートが仕込まれた引戸をベースに、建具の中に設けた小さな戸を開けると網戸が出てくる、という仕組み。
冬場はポリカ引戸をとして使い、玄関や勝手口ドア内部の断熱性を高めつつ光も取り込みます。夏は網戸として使えるのはもちろん、小扉の開閉具合で風量調整もできます。
これ、図面描くの超大変でした・・・
通風採光断熱引戸 ver2.0(上げ下げ)
こちらはver2.0として考えた上げ下げタイプ。横引きタイプでは割と視線が抜けてしまう点を上下で開けることで解消しています。この物件では引きしろもなかったのでややこしい折りたたみ機構も付けましたがそれはまた別項で解説することにします。
ちなみにこちらのほうが製作難易度はさらに高いです・・・
通風採光断熱引戸のデメリット
ここでこの建具のデメリットを考えてみます。
●とにかくコストが掛かる
建具の中に建具、というこの仕組みを見て頂いたら分かるように、めちゃくちゃ難易度の高い仕事になりますので製作コストはかなり掛かります。材料費や施工費も入れると、建具一枚で20万円以上かかることも・・・
●とにかく製作難易度が高い
いざこういう建具を作りたいと思って建具屋さんに相談しても、ほとんどの場合は断られると思います。
なぜなら相当腕が良くて図面も読める職人さんでないとこういうややこしい建具は作れないのと、新しいことに対して取り組む前向きなやる気が必要になるからです。
実はこの建具の一番のハードルはここで、製作建具にあまり慣れていない建築業者さんでは実現そのものが難しいかもしれません。
●防犯性能は低い
これは木製網戸でも同じことが言えますが、カギは付けるものの体当たりすれば壊れる程度の強度です。完全な防犯対策にはなりません。
夏も冬も使える万能引戸
ここまで色々ご紹介してきましたが、コストの高さや製作の難しさというハードルはあるものの、夏も冬も使える引戸としての仕事ぶりは評価できると思います。
特にマンションでは触れない共用部である玄関ドアの対策は内部での工夫しか対策のすべはありません。その中での工夫には難しい面もありつつも、オールシーズン使えることによる生活上の便利さはプライスレス。参考にしていただければ幸いです。