八ヶ岳高原音楽堂/吉村順三(1988)

丸山弾さんに口添え頂いて、すぐ近くの八ヶ岳高原音楽堂を見学させて頂けることになり、喜び勇んで行ってきました。まずは同じ敷地内にある、八ヶ岳高原ヒュッテにてランチ。

 

このあたりは標高1600m。車で向かうと途中から植生がガラッと変わるのが分かります。白樺がこれだけあると北海道、または以前行ったフィンランドの森の中に居るようで、今にもリスとか出てきそう。

車寄せから白樺の木立の中を歩いて向かう様子を動画で。鳥の声とおっさんの感嘆の声が入っています(笑)予想以上に軒が低い大屋根が見えてくる瞬間はとてもインパクトがあり感動しました・・・

大屋根とトップライトの圧倒的存在感。右手は芝生の斜面。斜面側がホールになります。

 

軒天はカラマツの羽目板。底目張りの雰囲気が師匠のレイモンドの教会建築を思わせる感じあります。RCの躯体が少し黄色いのは塗装ではなく、コンクリートそのものに色を混ぜて着色しているんだそう。無機質なコンクリートに大理石のような温かさが生まれています。樋はなしで雨を砂利に落とす形。ぐるりと続く軒のラインと木製建具のコンビネーションがきれい。土間タイルは真冬にマイナス20℃にもなる八ヶ岳の凍害対策で瓦メーカーが焼いたものだそう。

風除室の天井には音楽堂の平面プランの要となっている菱形をあしらった格子。

 

ホワイエ。トップライトからの光が優しく降り注いで荘厳な雰囲気。天井の木材と白の切り替え、幾何学的な天井の起伏がすごく効いてます。

トップライト詳細。外からは金属が見えてますが、中は木材で仕上がっているので、外と中の見た目の印象が大きく変わってます。

ホワイエ全景。写っているのが案内してくれた八ヶ岳高原ロッジの宮川さん。めちゃくちゃ丁寧にご説明頂きました。

床はチーク、天井はカラマツ。幅広の付鴨居が水平ラインを強調しつつ和の雰囲気を少しだけもたらす上品な空間。左手は大きな腰窓の開口になっています。

 

この腰窓から中庭が綺麗に見えます。軒の見え具合がちょうどいいなぁ・・・

 

近づいてみると、窓の外は高低差を活かした半地下の通路。ここが演者の通る裏ルートなんだそう。

 

でまあ、ね。この枠みたらね、分かるよね。そう、障子。ぜひみてみたい!と無理言って出してもらったら、おお、すごい格子!

三枚を閉めてもらったところ。横桟がジグザグに繋がっていく感じが面白い。

桟の幅は18ミリ。この大きなサイズの障子でこの桟の繊細さがいい感じ。定規がかわいい。

障子を全部閉めると空間がガラッと変わります。よく考えると、名栗の突きノミ仕上げみたいだなぁ・・・吉村さんもそのイメージ狙ったのかも。

 

戸袋のディティール。召し合わせになる一番右の障子は防寒じゃくり。呼び金物は真ん中の障子につけてあります。

たためる椅子が鎮座。左二つはミナペルホネン張りで吉野杉のバージョンです。この子の発表会が音楽堂で開催されたときに行くかどうか本気で悩んだんですが、行けなかったんですよね・・・

音楽堂で使われている代表的な木材。カラマツは天井、チークは床、ベイマツ(ピーラー)は建具とか造作材、ツガはたぶん障子とかですかね?

 

いよいよホールに入ります。扉はおそらくピーラー柾目。目が積んでる相当いい材料ですが、ちょっと空き出てきてます。

入ってすぐは天井がぐっと抑えられていて、いやがおうにもテンションが上がる仕掛けになっています。

おぉ~、写真集でしか見たことなかった場所にようやく来れました~感動でしばし動けません・・・

 

この音楽堂の可動式の客席として考えられた『たためる椅子』が鎮座しています。圧巻ですね。使い込んで革がいい感じにくたびれてきてます。

 

開口部は高さ3mくらいある大きな木製ガラス建具と、さらに内側に板戸があって、これを閉めることで外光を調整できるようになっています。

 

この板戸、さらに仕掛けがありまして、出っ張っている板をひっくり返すと布の貼られた吸音板が出てくる仕組みになっています。これで演奏する演目に合わせて残響時間とか調整するんでしょうね。面白いなぁ・・・

ちなみに、ステージ向かって右手の板戸は間にある壁に引き込まれているのでOKですが、正面のステージ後ろの5枚引戸部分も板戸を閉めたいときもあるわけです。で、どうなってるかというと・・・

 

左手の壁が開くようになっていて、そこに板戸が何枚も収納されているんです。ここから出してきた板戸は上吊りレールに沿ってコーナーを回りながら出てくる、というわけです。これはすごい・・・まさに回転板戸です。

無理を言ってこの回転板戸、一枚引き出させてもらった様子を動画でどうぞ。コーナーで回転する様子が分かります。

これ、出すのは良かったんですが、しまうのがとっても大変でした・・・動画はだいぶ編集してますが、かなり時間掛かってます。ガイドの宮川さんが不安そうに見守る絵が何とも申し訳ない気持ち・・・ですが、動く建具は動かす!がモットーでして・・・

バックヤードの楽屋も拝見させて頂きました。こちらにもたためる椅子が鎮座してます。

たためる椅子に合わせてデザインされたテーブルがかわいいです。こちらはたためません。

開口部の金物も真鍮でいい感じ。ストッパーは堀商店のカタログでみたことある気が。右手のハンドルは回転すると上下のデッドボルトが上下する仕組み。おそらくこれは鋳物でオーダーしたのかな?

ドアハンドルはもちろん堀商店。いい感じに経年変化してます。

こちらが楽屋からホールへと演者をいざなう通路。右上が先ほどの障子が入っていたところ。観客と演者の動線をゆるく分けつつ、双方が別の角度で中庭の風景を楽しめるというシンプルかつ素晴らしい動線計画。

通路の窓も全て木製建具。

外に出て芝生側からの外観。窓にきれいに映ってます(笑)

中庭からの風景。ちょうど霧が掛かってくるし、鳥の声以外は何も聞こえないし、ほんとに現実離れした光景。

八ヶ岳はとっても遠かったですが、音楽堂だけでなくて八ヶ岳全体が何だかファンタジーな雰囲気に包まれていて、夢の中にいるみたいで貴重な経験でした。

ご案内頂いた宮川さん、長時間ありがとうございました!