↑東京世田谷T邸。リビングの一部を畳の小上がりスペースとしてある。手前は引出し収納、奥は上部から取り出す床下収納。
マンションリフォームの要望でかなりの人気があるのが小上がりスペースです。畳の小上がりの場合もあれば、杉の床材を使ったスペースとして設けることもあります。なぜ小上がりはここまで人気があるのでしょうか?実は、私たちもマンションリフォームと小上がりは非常に相性がいいと考えており、積極的に提案することが多いです。
では、この小上がりのメリットやデメリットは?事例を交えながら詳しく考えてみたいと思います。
小上がりスペースの目的は?
↑大阪茨木M邸。リビングの一部に障子で仕切った畳の小上がりスペースを入れ子のようにはめ込んでいる。
私たちの設計でよく登場する小上がりは、床から30~35センチ程度の段差を設けることが多いです。これはちょうど椅子の座面と近い高さで、腰掛けるのにちょうどよく、また上がる際も負担の少ない高さだからです。
床を上げることによって、その他の床の空間と視覚的にゆるく分かれた床座のダイニングやリビング空間とすることができます。対面キッチンにしたいけど、床に座卓では座る人とキッチンに立つ人の目線が合いませんので、この目線を合わせる効果があります。
ですが、実は小上がりのメインの目的は寝室として設けることが一番多いのです。限られた面積の中で間取りを考える必要のあるマンションでは、一つの目的のために部屋を設けるのではなく、1つの空間に複数の目的を兼用させることで実用面積を増やして考えることができます。
↑小上がりは昼間はリビングの延長として、夜は閉めきって寝室としてつかう。
リビングの一角に引戸で仕切れるように小上がりを設けることで、昼間はリビングの延長として、畳に寝転んでもいいし、腰掛けてもいい、段差にもたれてソファのようにも使えます。赤ちゃんがいる家ではおむつを替えたりする場所、干した洗濯物をたたむ場所としても重宝します。
そして、夜は布団を敷くことで部屋全体をベッドとして使えるわけです。引戸で仕切ることで寒さといった問題もクリアできます。これは襖の開け閉めで様々な用途に対応できる、昔ながらの日本家屋の田の字間取りに近いな、と考えています。
↑右手の和紙張りの引戸が布団収納。下部は少し上げておくと、手元照明を置いたり小物を飾ったりするミニ床の間として活かせる。左手の引戸はウォークインクローゼットにつながる。
ただし、寝室として使う場合は、布団をどこにしまうか、という問題があります。30センチ程度で取れる普通の収納と違い、布団を置く場合は80センチ程度の奥行きが必要になります。これがいつも頭を悩ませるところです。
↑神奈川 川崎H邸。小上がり寝室はあえて押入れを設けず、少し離れた場所に別途設けた。代わりに本棚を壁面いっぱいに設けている。
布団置き場を隣接させるのが難しい場合や、共働きで毎日の布団の上げ下ろしが面倒という場合は、あえて押し入れは設けず、来客時に緊急的に布団をしまえるスペースを別の場所で確保する、という方法もあります。
家具として設ける小上がり畳ユニット
↑左)伊丹O邸。右)大阪都島O邸。基本仕様となる小上がり畳ユニット。
さて、小上がりスペースは今までご紹介してきた固定物として大工さんに造り付けてもらうパターンのほか、床に置くだけの家具としての小上がり畳ユニットもご提案することが多いです。実例としてはこちらのユニットタイプの方が多いかもしれません。最近の定番となっています。
メーカーの既成品でもこういったユニットは存在しますが、仕上がりがイマイチなのとコスト的にも高いため、大工さん、もしくは家具屋さんで特注してもらうようにしています。
↑神戸長田区N邸。小上がり畳ユニットは床に置くだけなので移動が自由。引出しは床を滑らせているだけの単純構造。
小上がり畳ユニットは非常にシンプルな構成。造作キッチンにも使っているシナ材の共芯合板をコの字に組み、補強材で補強した上に畳を載せているだけです。別途設ける引出しは金物などは使わず、家具用の滑りシートを裏面に張ることで床の上を滑らせています。もちろん置くだけなので若干の揺れや動きはありますが、このユニットの最大の利点は動かせること。将来的な変更に柔軟に対応できますし、気分に合わせて模様替え、なんてのも簡単です。
↑左)伊丹O邸。手前の半分は家具ユニット、奥の半分は造作となっている変則的なパターン。ユニットは仏壇の前に移動して畳ベンチとしても使える。
物件によっては少し入り組んだ形状の場合など、半分は造作、半分は家具という変則的なパターンもあります。どちらにしても下部は物入れとして使用できます。
ちなみに、この畳ユニットはシングル住まいやご夫婦のみの方の家で採用されることが多く、大きなLDKにベッド代わりに、という事例も多いのですが、造作の場合のように引戸などで仕切るのが難しいです。寝る場所として使う場合は、壁や窓の断熱改修は必須項目と考えて頂くほうがいいです。寒い空間ではなかなか眠れませんので・・・
杉床を使った小上がり
↑左)神戸兵庫区Y邸。右)明石K邸。床として上げる場合は20センチ程度にして、昇り降りをより簡単にできるようにすることが多い。
ここまでは畳の小上がりをご紹介してきましたが、杉床を使って小上がりにすることももちろん可能です。この場合、通路としても使われるケースが多いので、床の段差は20センチ程度にすることが多いです。この高さでも、乾式二重床で上がっている分も足すことで、床下の収納は十分確保できます。
小上がりスペースは視覚的に家を広くする
事例を交えて色々とご紹介してきましたが、小上がりの最も大きな利点は、収納スペースと居室スペースを重ねて考えられることです。通常は別々に分けないといけない収納と寝室を、二階建てにすることで兼用できる、そうすることでマンションの床面積を増やしてしまう効果があると考えてもいいかもしれません。
と、ここまでは収納などの現実的な話でしたが、実は小上がりのメリットはもうひとつあります。床に高低差がつくことで、家に立体感や奥行きが出るために、面積以上の広さが感じられるようになる、ということです。
非常に抽象的でわかりにくいとは思いますし、むしろ家が狭く感じるんじゃないか、と思われるかもしれませんが、何もないフラットな和室に比べると、一段上がることで、昇り降り、腰掛ける、もたれるといったアクションが生まれ、そこが居場所になります。床の高低差はそれぞれの高さで家の中に別の視点を生み、それが家の奥行きにつながり、同じ面積でもより豊かな空間となります。
もちろん、いいことばかりではありません。天井高さが低い物件では頭を打つ可能性も高くなるし、段差があることで昇り降りの手間だって掛かります。ただ、便利さを追求するよりも、不便を伴う楽しさも家には必要ではないか、と思ってしまうのは私だけではないのでは、と考えています。みなさんもぜひ小上がりの楽しさを味わって頂ければと思います。