マンションリフォームと引戸

マンションリノベーションでのプランニングにおいて、私たちが大事にしていることの一つが引戸(ひきど)です。プランニングの際は基本的に全て引戸として考えます。引戸は日本の住宅に昔からある装置であり、日本人のライフスタイルに最も適していると思います。

引戸の大きなメリットは、開き戸と違い扉を開放した際に邪魔にならないことです。特にマンションの廊下は細長い空間に扉が並ぶことが多いこと、また夏場は風を通すために戸を開けっ放しにする時間が長く、開き戸は開放時に戸が邪魔になることが多いのです。

特に今住まれているマンションを改装したい、という方のご要望に引戸のリクエストが多く、いかに日常生活で扉が邪魔になっているのかを痛感します。

ここでは引き戸の種類とメリット、デメリットなどを実例を交えてご紹介します。

 

一般的な引戸(アウトセット)

通常は鴨居と呼ばれる木材を上部に取り付け、扉が動くための溝を彫り、引戸を可動させます。メーカー既製品の引戸では建具収納部分に薄い壁を設けるものが一般的ですが、壁の強度や納まりを重視して壁の外側に引戸を走らせる(アウトセット)ことが多いです

開放時の建具が納まるスペースさえあれば問題ありませんが、スイッチやコンセントを付ける壁がなかったり、スペースがない場合は下の引き込み戸とするケースがあります。

伊丹Y邸。廊下から各室への引戸は壁の外側(廊下側)に引くことで開くように設置することで、
居室側の壁スイッチやコンセントとの干渉が起きない。

 

引き込み戸について

引戸は設置のために引きスペースが必要になります。その際、スイッチやコンセントと干渉したり、他の引戸との干渉、袖壁の長さ不足などで場所によってはどうしても引戸にできないケースもあります。

が、例えば開放時は壁の中に納めてしまう『引き込み戸』とすることで問題が解決できる場合もあります。

 

宝塚I邸。収納と壁で囲まれているため普通の引戸は難しいが、開き戸にすると開放時に扉が邪魔になる。
そこで収納内部に扉の引き込みスペースを設け、収納内に建具を収納できるようにした。
開放時は扉の存在が完全に消えてしまう。

 

アウトセット2枚重ね

引戸が2つ並ぶ場合、双方とも引きスペースの袖壁が必要になりますが、壁が取れないケースもあります。その場合、アウトセット引戸を2枚重ねることで解決できる場合があります。この場合、引戸の通りがずれるのと、厚みが必要になるので、壁に工夫が必要です。

宝塚I邸。洗面とトイレの入口が並んでおり引きスペースが確保できない。
そこで双方の引戸を同じ壁面に引き込めるよう建具の通りをずらした。
壁を薄く納めるために杉板のみで壁を構成している。

 

アウトセットと引き込み戸の合わせ技

場所によっては上記アウトセット引戸と引き込み戸を組み合わせることもあります。

尼崎T邸。寝室から廊下(右手)、寝室からウォークインクローゼット(左手)に繋がる通路が
隣り合わせておりスペースがなかったため、左側のドアを引き込み、右手のドアを手前に引くことで
扉一枚分の壁で2枚の引戸を納めている。

 

巨大片引戸

押入れは引き違いの襖などのケースが多いのですが、引き違い戸は半分しか開かないため、布団や大きなものを入れるときに入れにくかったり、中のものを探しにくい、という欠点があります。そこで引きスペースがたっぷりある場合には、押入れと同じ幅の巨大引戸にすると全開できるので便利です。

ただし大きすぎる引戸は搬入経路が取れないケースが多く、物件によっては不可能な場合もあります。

西宮名塩K邸。背中合わせの押入れの扉を巨大な片引き戸にすることで全開できるように。

 

上吊り引戸について

引戸は大きくなればなるほど、開閉時に騒音が発生しやすくなります。そこでマンションリノベーションでは天井から吊る『上吊り引戸』をお勧めしています。下の図のように、戸の上枠(鴨居)にレールが、戸には滑車が付いており、上から吊るような状態になる引戸です。

 

一般的な引戸は押入れフスマのように、鴨居と敷居に溝が彫ってあり、そこに戸をはめ込む形式になります。こうなると、床に溝ができてしまうため、空間的に区切られてしまうという欠点もあります。上吊りにすることで引戸の下には何もつかないため、バリアフリーの観点からも優れています。

 

東灘M邸。リビングの引き込み戸。引き込みの場合、戸を入れる、または外すということが
簡単にできるようにする必要があり、上吊り引戸は向いている。

 

上吊り引戸のデメリットは建具の横に吊り金具が見えてくること、下部は一点支持になるため戸が揺れやすいこと、隙間が大きくなりやすい、といったことがありますが、廊下からリビングへの入口などで、床の仕上げ方向に直行するように引戸がつく場合は、床にレールがなくなるだけで繋がり感は高まります。

 

Vレール+戸車

なお、上吊りは引き違い戸にすることは可能ですが、三枚引戸などはできません(できる金物もありますが、あまりお勧めしません)

なので収納や間仕切りなどでの三枚戸や引き分け戸の場合は、床に『Vレール』という特殊なレールを埋め、床がフラットになるようにして、扉には『戸車』という小さなタイヤみたいものを入れて、スムーズに戸が動かせるようにします。

宝塚I邸。寝室収納の3枚引戸は床にVレール埋め込み、建具に戸車を設置。

マンションリノベーションは限られた箱の中で、空間を最大限有効に活かす必要があります。そういった意味でも引戸はとても重要です。その家のその場所に最も合った建具を考えることを心がけています。